シニアライフと健康 学び直し

なぜ食事量を変えても体重の変化が少ないのか

脂肪が二酸化炭素と水に分解されて外に出る様子

― 体重は「食べた量」では決まっていなかった ―


多くの人が感じる、不思議な現象

「食べる量を減らしているのに、体重計の数字が全然動かない…」
「昨日は少し食べ過ぎたのに、翌朝の体重はほとんど変わっていない」

シニア世代になると、こうした経験をする人が一気に増えます。若い頃は食事量と体重が比例していたのに、なぜ今は違うのでしょうか。

多くの人は、体重を次のように考えがちです。実は私も漠然と下記の式になるのかと考えていました。

食べた量 - 排泄した量 = 体重の増減

一見、正しそうに見えるこの式。しかし、体の仕組みを知ると、この見方だけでは説明できないことが分かってきます。

実は、体重を大きく左右しているのは食事でも排泄でもなく「呼吸」でした。


そもそも「体重」とは何の重さなのか

ここで重要な前提があります。

エネルギー → 重さはない(カロリーは物質ではない)
体重 → すべて「物質」の重さ

つまり「エネルギーを使ったから体重が減る」とは、体内の物質が別の形に変わって体の外へ出たということを意味します。

カロリーそのものが減っているのではなく、脂肪や糖といった実際に重さのある物質が、別の物質に変化して体外に出ていくのです。


食べたものは、どこへ行くのか

便として出る量を見ると、「食べた分はちゃんと外に出ている」と感じるかもしれません。

しかし実際には、便の正体は次のようなものです。

  • 消化できなかった食物繊維
  • 腸内細菌の残骸
  • 消化液の残りなど

栄養のほとんど(約95%以上)は、体内に吸収されています。

では、その吸収された栄養はどこへ行くのでしょうか。すべて脂肪になってしまうのでしょうか?


なぜ食事量を変えても体重があまり変わらないのか

体に入った栄養は、脂肪として溜め込まれる前に、実は次のことに優先的に使われます。

  • 体温の維持(36℃前後を保つだけでも大量のエネルギーが必要)
  • 内臓の働き(心臓、肝臓、腎臓などは24時間休まず稼働)
  • 姿勢の保持(座っているだけでも筋肉は働いている)
  • 日常動作(歩く・立つ・家事・会話など)

特にシニア世代では、「運動している意識がなくても」エネルギーが使われている場面が非常に多いのです。

体温を保つだけでも、1日で約1,200〜1,500kcalものエネルギーが消費されています。これは、ご飯茶碗5〜6杯分に相当します。

その結果、
食べた量を少し変えても、体重は大きく動かない
という状態が起こります。


運動や日常活動で、体の中では何が起きているのか

脂肪や糖は、活動によって使われると酸素と反応して、次の物質に変わります。

脂肪・糖 + 酸素 → 二酸化炭素(CO₂) + 水(H₂O) + エネルギー

体の外への出口は次の通りです。

  • 二酸化炭素 → 呼吸として吐き出される(約84%)
  • → 尿・汗・呼気の水蒸気として出る(約16%)

ここで大切なのは、体重が減る最大の出口は「汗」ではなく「呼吸」という事実です。

例えば、10kgの脂肪が燃焼すると、そのうち約8.4kgは二酸化炭素として呼吸から出ていき、約1.6kgが水として尿や汗になります。

汗は一時的な水分の減少で、水を飲めばすぐ戻ります。しかし、呼吸で出ていった二酸化炭素は元に戻りません。これこそが、本当の意味での「体重減少」なのです。


それでも体重があまり変わらない理由

では、なぜ呼吸で脂肪が出ていっても、体重計の数字はなかなか動かないのでしょうか。

理由は3つあります。

1. 脂肪はゆっくりしか減らない

脂肪1kgを減らすには、約7,200kcalの消費が必要です。これは毎日1時間のウォーキングを1ヶ月続けても、やっと1kg減る計算です。

2. 水分量は日々変動する

体の約60%は水分です。食事の塩分、気温、運動量によって、1〜2kgの水分変動は日常的に起こります。脂肪が減っていても、水分が増えていれば体重は変わりません。

3. 筋肉や体内組織は守られる

体は急激な変化を好みません。生命維持に必要な筋肉や内臓を守りながら、少しずつバランスを取ろうとします。

体は「生きるために最適な状態」を保とうとするため、体重は急激には動かないのです。

これは衰えではなく、体が安定して働いている証拠でもあります。


シニア世代にとって「体重より大切な指標」

ここからが、とても重要な視点です。

体重は便利な数字ですが、シニア世代の健康を正確に表す指標とは限りません。むしろ、次のような変化の方が、よほど重要なサインです。

体重より注目したい変化

✓ 朝、目覚めたときに体が軽く感じるか
✓ 階段の上り下りで息切れしにくくなったか
✓ 以前より長い距離を歩けるようになったか
✓ 食後に強い眠気が出にくくなったか
✓ ウエストや服のフィット感が変わったか
✓ 姿勢が良くなったと言われることが増えたか

これらはすべて、体がエネルギーをうまく使えているサインです。


なぜ「体重」だけを見ると誤解が生まれるのか

脂肪が減っても、筋肉や水分が保たれていれば、体重は変わらないことがあります。

しかし、体の中では確実に変化が起きています。

  • 血流が良くなり、冷えにくくなる
  • 代謝が上がり、疲れにくくなる
  • 内臓の働きが改善し、消化がスムーズになる
  • 血糖値や血圧が安定する

体重は結果のひとつであって、目的ではない

この視点が、シニア世代には特に重要です。体重という一つの数字に振り回されず、体全体の調子を感じ取ることが、本当の健康管理につながります。


おわりに

もしあなたが、

  • 食事量を調整しても体重が変わらない
  • 運動しても数字が動かず不安になる

そんな時は、こう考えてみてください。

体が壊れているのではなく、体が賢く調整している

体重が安定していることは、今日も体がきちんと働いている証拠なのかもしれません。

むしろ、日々の小さな変化—朝の目覚め、歩きやすさ、疲れにくさ—に目を向けてみてください。そこにこそ、あなたの体が送る「元気のサイン」が隠れています。

体重計の数字ではなく、あなた自身の体の声に、耳を傾けてみませんか。

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