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AI時代でも消えない「加工の本質」──技能伝承が本当に伝えるべきものとは

旋盤作業の技能を磨く男性

加工技術の本質はどこにあるのか

― AI・NC化の時代に「技能」が失われない理由 ―

かつて工作機械といえば「汎用機」が主流で、私自身も技能五輪・旋盤職種の代表として全国大会に出場した時代がありました。

あれから数十年。
機械は数値制御(NC)に進化し、今ではAIが加工条件を自動最適化し、加工プログラムすら自動生成される時代になりました。

では、人の技能はもう必要ないのか?

──私は、そうは思いません。

むしろ機械が進化するほど、「加工の本質」 が浮き彫りになってきていると感じています。


変わる技術:NC・AI

NC化は確かに加工のスピード、精度、再現性を飛躍的に向上させました。
さらにAIは工具寿命予測やびびり防止、最適条件提示まで行います。

しかし、そこには一つの前提があります。

「正しい段取り」や「正しい理解」がすでにあること。

AIは最適化はできても、
「判断の前提」 を創り出すことはまだできません。


変わらないもの:加工の本質

加工で結果を左右する本質は、実は昔からまったく変わっていません。

材料を読む

金属にはそれぞれクセがあり、切削音・刃物の抵抗・切りくずの色は「声」そのものです。

適正な切削条件を感じ取る

教科書の回転数や送りは“目安”。
本当の最適は、現場の微細な振動や工具の鳴きで決まります。

段取り八分

どこを基準にするか、どの順序で削るか。
その判断ミスは、AIでも取り戻せません。

工具を理解する力

切削は「刃物の物語」。
刃先角度、芯高、逃げ角、すくい角の意味を理解しなければ、AIの出した条件を評価すらできません。

熱・歪みとの対話

図面の“理想”と現物の“現実”の差を埋めるのは、数値ではなく職人の経験です。


技能の本質とは何か

私は技能とはこういうものだと思っています。

「変化し続ける現物を、五感と頭脳で読み解く力」

機械がいくら進歩しても、
金属は生き物のように毎回違う表情を見せます。

その“違い”を受け止めて最適な判断を下す。
そこに人間の技能の価値があります。


若い世代へ伝えたいこと

NCやAIが進化しても、加工の本質は変わりません。

むしろ技能とは、
「機械の時代だからこそ価値が高まる能力」 です。

技能の伝承とは、ただ手順を教えることではありません。
“物の見方”“現象の受け止め方” を育てることです。


本質は消えない

技術は変わります。
しかし、本質は残ります。

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