エッセイ・思考 テクノロジー / ITとAI

『記憶はAIに任せればいい』という言葉に、なぜか引っかかった話

──それでも「頭の中の記憶」が創造性を生む理由

AI時代、「記憶はAIに任せればいい」という考え方について

AIの進化によって、
私たちは必要な情報を一瞬で取得できるようになりました。

その流れの中で、
「もう人が覚える必要はない」
「記憶はAIに任せればいい」
という意見を目にすることも増えています。

効率や正確さだけを考えれば、
この考え方はとても合理的です。

「記憶はAIに任せればいい」というメッセージをパソコン画面で見ながら、顎に手を当てて首をかしげている人物を手書き風に描いたイラスト。AI時代の考え方に静かな違和感を抱いている様子を表現している。

しかし私は、この言葉に対して
どこか違和感を覚えていました。

それは、
人の記憶が果たしてきた役割が
単なる「情報保存」だけだったのか、
という疑問です。


人は昔から「外部記憶」を使ってきた

まず前提として、
私たちはAI以前から外部記憶を活用してきました。

  • 文字による記録
  • 本や辞書
  • ノートやメモ

分からないことを調べ、
書き留め、読み返すことで理解を深める。

この意味では、
AIは外部記憶の延長線上にあるとも言えます。

本や辞書やノートでじっくり調べものをする人と、AIチャットで素早く答えを得る人を左右に並べて描いた手書き風イラスト。外部記憶の「時間の摩擦」とAIの「高速な検索」の違いを表現している。

では、
何が今までと決定的に違うのでしょうか。


AI時代に生じた決定的な違いは「スピード」

私が一つの答えとしてたどり着いたのが、
情報取得のスピードです。

従来の外部記憶には、

  • 探す時間
  • 読む時間
  • 考える時間

が必ず存在しました。

この「時間の摩擦」が、
自然と記憶の取捨選択を行い、
人の中に知識を沈殿させていたのだと思います。

一方、AIは違います。

質問すれば即座に答えが返り、
まるで自分の脳内に最初から
その知識があったかのような感覚すら生まれます。

ここで初めて、
「記憶と検索の境界」が曖昧になりました。


それでも「人の記憶」は不要にならない理由

しかし、それでもなお
私の中で消えなかった感覚があります。

それは、
人の記憶から生まれる創造性やひらめきです。

  • 何気ない瞬間に浮かぶアイデア
  • 無関係だった記憶同士の結びつき
  • 理由は分からないが、言葉が湧いてくる感覚

特に象徴的なのが「夢」です。

ベッドで眠る人物の上に、雲のような夢の吹き出しが浮かび、その中に家や本、人の横顔やメモの断片などがぼんやりと描かれている手書き風イラスト。無意識の記憶が結びついて夢やひらめきが生まれる様子を表現している。

意識的に覚えた記憶がなくても、
就寝中には思いがけない光景や物語が展開される。

これは、
「必要なときに検索した情報」からは
生まれにくいものではないでしょうか。


人の記憶は「判断に影響する環境」である

ここで私は、
人の記憶を次のように捉え直しました。

人の記憶は、

  • 使うためだけに保存されているものではなく
  • 意識に上る前の段階で
  • 判断や言葉選びに影響を与える

思考の背景環境なのではないか。

AIの外部記憶は非常に優秀ですが、
呼び出されたときにのみ機能します。

一方、人の記憶は、
呼び出していないときにも
静かに働き続けている

この違いは、
生まれる言葉や考えの質を変えると感じています。

机で文章を書いている人物の背後に、半透明のレイヤーが何重にも広がり、その中に本や人の影、風景やメモの断片が浮かんでいる手書き風イラスト。人の記憶が思考の背景環境として静かに影響している様子を表現している。

AI時代だからこそ考えたい「記憶の役割」

私は、
「AIを使うな」と言いたいわけではありません。

むしろ、
AIはこれからの時代に欠かせない存在です。

ただ、

記憶はすべてAIに任せればいい

と単純に考えてしまうと、
人の中にある
説明しきれない思考の層まで
軽視してしまうのではないか。

その点だけは、
一度立ち止まって考えてみたいのです。


忘れたくない感覚

最近、
何も調べていないのに
ふと浮かんできた考えはありませんか。

机の上の開いたノートとペン、その隣にAIとの対話画面を表示したスマートフォンが並んでいる手書き風イラスト。人の手で書いた記憶とAIからの情報が、同じ作業空間で穏やかに共存している様子を表現している。

それは、
あなたの中に残っていた記憶が、
静かに結びついた結果かもしれません。

AI時代だからこそ、
人の記憶を
「不要なもの」と切り捨てるのではなく、
どのように共存させるかを考える。

私は、その感覚を
忘れたくないと思います。


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