エッセイ 健康

呼吸は内臓をマッサージする

実は呼吸って、「お腹の中の自動メンテナンス」だったんです ── お薬を増やす前に、ちょっと思い出してほしいこと

胃腸の調子が悪いとき、真っ先に思いつくのは「何を食べるか」とか「どんな薬を飲むか」ですよね。でも実は、もっと身近なところに答えがあります。それは、私たちが一日に何千回も無意識に繰り返している「呼吸」なんです。

呼吸するたびに、お腹の中では何が起きている?

息を吸うとき、胸とお腹の間にある「横隔膜」という筋肉が大きく動きます。この横隔膜、実は胃や肝臓のちょうど真上にあって、息を吸うたびに下へ降りてきます。そうすると、内臓全体がやさしく押されるんです。これって、内側から毎日何千回も繰り返される"マッサージ"みたいなものなんですよ。

たとえるなら、こんな感じです: お腹の中にある臓器を、上から手のひらで優しく「ぎゅっ、ぱっ、ぎゅっ、ぱっ」と繰り返し押しているイメージ。これが内臓の血流を促して、動きをサポートしてくれるんです。

さらに、ゆっくり息を吐くと、リラックスをつかさどる神経(副交感神経)が優位になります。すると胃腸が「さあ、働こう!」というモードになって、消化液が出たり、腸が動いたりするんです。

つまり呼吸は、

  • 息を吸う→横隔膜が降りて内臓をマッサージ
  • 息を吐く→神経がリラックスして消化のスイッチON

この2つを同時にやってくれる、すごく理にかなった「お腹のメンテナンス法」なんですね。

年を重ねると胃腸の調子が悪くなるのはなぜ?

「前より胃がもたれやすい」「夜、胸焼けがする」「薬をやめるとまた調子が悪い」…… こんな悩み、増えていませんか?

これって実は、胃腸が「壊れた」わけじゃないんです。そうではなくて、

  • 横隔膜があまり動かなくなった
  • リラックス神経が働きにくくなった つまり、"整える仕組み"が弱くなってきただけなんです。

若い頃は、仕事で動き回ったり、運動したり、とにかく体を使っていたので、自然と横隔膜もよく動いていました。でも座っている時間が増えて、呼吸が浅くなって、気づけば肩や首がいつもこわばっている…そうなると、横隔膜の動きが小さくなって、内臓は「メンテナンスしてもらえない」状態になってしまうんです。

こんな経験、ありませんか?

  • デスクワークが増えてから、なんとなく息が浅い
  • 気づくと肩で呼吸している
  • 夕方になると背中が丸まって、お腹が圧迫されている感じがする

これ、全部「横隔膜が十分に動けていないサイン」なんです。

お薬は症状を和らげてくれますが、弱った"仕組み"そのものを元に戻してはくれません。だからこそ、呼吸で体の使い方を変えることが、年齢を重ねるほど大切になってくるんですね。

じゃあ、どうやって呼吸すればいいの?

難しいことは何もありません。大事なのは「ゆっくり、深く、リズムよく」です。

目安:吸う4秒 / 吐く6〜8秒 × 5〜10分

1) 鼻から4秒かけてゆっくり吸う

  • 胸じゃなくて、みぞおちから下腹がふわっと膨らむイメージ
  • 「横隔膜が降りて、内臓に触れてるな」って感じてみてください
  • ポイント: お腹に手を当てて、膨らみを確認してみると分かりやすいですよ

2) 鼻か口から6〜8秒かけて細く長く吐く

  • 肩や喉の力は抜いて
  • 吐ききる手前で、静かさを味わうように
  • ポイント: 口から吐くときは、ロウソクの炎を消さない程度の細さで。これが副交感神経を刺激するコツです

3) 食後2〜3時間経ってから

  • 座るか、仰向けになるのが一番やりやすくて安全です
  • おすすめタイミング: 寝る前の10分間。リラックスして眠りにつけるし、翌朝のお通じにも良い影響が出やすいです

ポイントは「頑張らないこと」。強くやる必要はなくて、静かに、ただ続けることが大事なんです。

続けるとどんな変化が?

個人差はありますが、多くの方がこんな変化を感じています:

  • 1週間〜: 寝つきがよくなる、朝の目覚めがすっきり
  • 2〜3週間〜: お腹の張りが減る、もたれにくくなる
  • 1ヶ月〜: 胃薬を飲む回数が自然と減った、という声も

すぐに劇的な変化がなくても、大丈夫。「整える仕組み」は、毎日少しずつ取り戻されていきます。

呼吸は「老い方の質」を変えていく

年を重ねるって、「自然にうまくいっていたこと」が、「自分で意識して整える必要があること」に変わっていくことなのかもしれません。

でもそれは、衰えというより、自分で自分を整える力が増す、ある種の成熟とも言えますよね。

呼吸は、その最前線にあります。お薬でも食べ物でもなく、「自分の体の使い方」を整え直すこと。それが今日からできるって、実はシニア世代にとっての静かな強みであり、希望でもあるんじゃないでしょうか。

最後に

呼吸を整えることは、年齢を重ねた体と穏やかに向き合って、自分の力で明日の調子を取り戻す、一番身近で確かな方法です。

特別な道具も、お金も、場所も必要ありません。必要なのは、ほんの少しの意識と、5分間の静かな時間だけ。今日の夜、布団に入る前に、試してみませんか?

-エッセイ, 健康
-