― シニア世代こそ、もう一度「握力計」に触れてみてほしい理由 ―
私たちシニア世代が、最後に握力計を握ったのは、いつだったでしょうか。
おそらく多くの人が「小学生の運動能力テスト以来」ではないかと思います。
あの頃は、強い・弱い、順位、記録。そんな"競争の数字"としての握力でした。
でも今、あらためて握力を測ってみると、それはまったく違う意味を持ちはじめます。
握力は「手の力」ではなかった
最近、「握力は健康管理に役立つ」という話を耳にして、半信半疑で握力計を手に取りました。
正直、握力というのは手の筋肉の強さだけを測るものだと思っていました。それでも測ってみると、数字以上に、いろいろなことが見えてきたのです。
実は握力は、手や腕だけの力ではありません。
肩、背中、体幹、神経の反応。これらが協力して働いた結果が、数値として現れます。
つまり握力は、「体全体が、まだ一緒に動いているかどうか」を教えてくれる指標なのです。

医学の世界でも、握力は全身の筋力や健康状態を反映する重要な指標として注目されています。「たかが握力」と思っていた私たちの認識は、どうやら間違っていたようです。
血圧や体重とは、教えてくれるものが違う
血圧計や体重計は、とても大切な健康管理の道具です。でもそれらは、どちらかというと「状態」を教えてくれる数値です。
一方、握力は少し違います。
疲れている日は下がる。よく眠れた日は戻る。使いすぎると、回復に時間がかかる。
握力は、体の"余力"や"回復力"をとても正直に映します。
測るたびに、「今日はどんな一日だったか」が、あとから分かることもあります。
朝と夕方で測り比べてみると、疲労の度合いが数字に表れることもあります。体重計の数字は一日で大きく変わりませんが、握力は体調に敏感に反応してくれるのです。
実際に測ってみて分かったこと
私自身、測ってみたところ、右手43.3kg、左手32.9kgという結果でした。
左右差は10kg以上。「差が大きすぎるのでは?」と少し不安にもなりました。
でも話を整理してみると、これは衰えではなく、これまでの体の使い方の履歴だと分かってきました。
利き手に頼ってきたこと。ゴルフや日常動作での癖。無意識の積み重ね。それが、今の数字に表れている。
そう考えると、この差は"問題"ではなく、体からのメッセージに見えてきます。
「もっと左手も使ってあげてください」「体のバランスを意識してみてください」と、体が静かに語りかけているような気がしたのです。
ちなみに、一般的なシニア世代の握力の目安は、60代男性で平均40kg前後、女性で25kg前後と言われています。ただし、これはあくまで目安。大切なのは平均との比較ではなく、自分自身の変化を知ることなのです。
シニア世代の握力は「強さ」より「戻る力」
大切なのは、平均より上か下かではありません。
急に落ちていないか。少し休めば戻るか。左右差が広がり続けていないか。

こうした変化のしかたを見ることが、シニア世代の健康管理では何より重要です。
私の年齢は、「もう遅い年齢」ではなく、「管理すれば、十分に保てる年齢」。
握力は、鍛えなくても、使い方を少し意識するだけで保てます。むしろ、無理に鍛えようとして怪我をするより、今ある力を上手に維持していく方が賢明です。
週に一度でも測る習慣をつければ、「先週より5kg下がっている。最近疲れているのかな」といった気づきが得られます。これは血圧や体重ではなかなか分からない、体からの大切なサインなのです。
日常でできる、ほんの小さな習慣
特別な運動は必要ありません。
タオルをゆっくり絞る。左手を少し意識して使う。グー→パーをゆっくり繰り返す。

このとき大事なのは、指を反らしすぎないこと。強く伸ばすのではなく、自然に「開く」。これはストレッチではなく、体の調律に近い動きです。
他にも、日常生活の中でできることがあります。
買い物袋を両手で均等に持つ。ペットボトルの蓋を両手で開けてみる。リモコンを利き手でない方で操作してみる。
こうした小さな工夫が、左右のバランスを整え、握力の維持につながります。「意識する」だけで、体は少しずつ応えてくれるものです。
握力計は「体と対話する道具」
今、私にとって握力計は、健康診断の代わりではありません。毎日使う必要もありません。
でも、ときどき握ってみることで、最近無理していないか、ちゃんと回復できているか、体はまだ協力してくれているか。そんなことを、静かに教えてくれます。
握力計は数千円から手に入ります。デジタル式もありますが、昔ながらのアナログ式でも十分です。大切なのは、正確な数字よりも「自分の変化を知る」こと。
測るときのコツは、力を入れすぎないこと。自然な姿勢で、肩の力を抜いて、呼吸を止めずに握る。この「自然体」で測ることが、本当の体の状態を知る秘訣です。
おわりに
子どもの頃は、順位をつけるために使っていた握力計。
シニア世代になった今、それは体の声を聞くための道具に変わりました。
もし家に眠っている握力計があれば、あるいは、これから一つ買うなら。ぜひ一度、競争ではなく、対話のつもりで握ってみてください。
きっと、思っている以上に、今の自分のことが分かるはずです。
そして、その数字を通して見えてくるのは、「衰え」ではなく「これからも付き合っていく自分の体」です。握力計は、私たちとこの体との、新しい関係を築く入り口になってくれるのかもしれません。